「裂き織」にひとめ惚れ
私が「裂き織」と出会ったのは、2009年8月。勤めていた会社の勉強会で、盛岡市にある高等支援学校を見学したときです。障がいを持つ子どもたちが通うこの学校では、カリキュラムの一環として木工品や園芸品、手芸品などの制作・販売に取り組んでいるのですが、中でも余り布や古布を細く裂いて織った「裂き織」の美しさ、緻密さにとても感銘を受けました。
このとき初めて「裂き織」という伝統技術が地元で受け継がれてきたことを知りました。それ以来、今まで全然目に入ってこなかった裂き織が、道の駅や物産展などいろんなところで目に入ってくるようになったんです。しかも、まちなかで売られているどの裂き織よりも、支援学校で見たもののほうがずっとすばらしい。生徒さんのレベルの高さに改めて感心したのと同時に「技術を習得しても卒業後の就職にはなかなか結びつかない」という先生の話を思い出しました。
障がい者の技術を活かす雇用の場を
「この技術を埋もれさせるのはもったいない」。そう考えた私は、勤務先の社長に「裂き織を事業としてやりたい」と直談判。盛岡市の緊急雇用創出事業の補助金を得て、2010年7月に裂き織の生産・販売事業を立ち上げました。支援学校を卒業した障がい者2名を含む、計4人でのスタートでした。
織り機などの設備を整え、あとは材料となる布をどこで調達しよう…。そう考えていたとき、思いついたのが、岩手を代表する夏祭り「盛岡さんさ踊り」の浴衣を使うことでした。さんさ踊りでは、さまざまな企業・団体が揃いの浴衣を着てパレードに参加します。その着古した浴衣をもらい受けて裂き織にし、縫製してポーチやペンケースなどを作り、販売。若い世代を中心に幅広く受け入れてもらえるデザインを意識しました。パレードに華を添えるさんさの浴衣は色合いがきれいなので、仕上がりもポップでカラフル。「さんさ裂き織」と名付けたこのシリーズは、盛岡のおみやげとして少しずつ認知されるようになりました。
- 「裂き織を仕事にしたい」と考えている障がい者を対象に、支援学校や障がい者施設からの実習も受け入れている。
- 工房で裂き織を手がける、障がいを持つスタッフたち。彼らの仕事ぶりはていねいで、何より「裂き織が好き」という気持ちで楽しく働いている。
「幸呼来Japan」の設立
順調に成長を続けていた「さんさ裂き織」でしたが、東日本大震災が発生し状況が一変。震災の影響で母体である会社の業績が不安定になり、裂き織事業を続けられなくなったのです。
だけど、電気も復旧していない震災の翌日にでさえ「心配だから」と工房に来てくれたスタッフたちを見放すなんて、私にはできませんでした。「なんとかして彼らの働く場を確保しなければ」。そう思い独立を決意。2011年9月に「株式会社 幸呼来Japan」を設立しました。
「幸呼来」は、さんさ踊りの「サッコラ〜チョイワヤッセ」というかけ声から取ったもの。「幸せは呼べばやって来るよ」という意味です。東日本大震災で大きく傷ついた東北、日本に幸せが来るようにという思いも込めました。
対等なビジネスパートナーになるために
そんな中、大手通販会社さんに声をかけていただき、商品を扱ってもらうことになりました。そのためにも安定した生産体制を整えなければなりません。そこで障がい者の就労を支援する「就労継続支援事業所」の認可を受け、障がいを持つスタッフを追加雇用。また、地域の障がい者施設、裂き織サークルとも連携し、数量の多いオーダーにも対応できるようにしました。
大手との取引は思った以上に大変でした。指定された納期に間に合わせることができなかったり、経験のない大量の注文に腰が引け「絶対無理」と即答したこともあります。それでもビジネスの基本を教えていただきながら受注をこなすことで「自分たちにもできる」という自信が生まれました。私は裂き織を事業にすると決めたときから「障害者支援というフィルターを通すのではなく、純粋に商品のクオリティで勝負したい」と考えていましたが、まだまだ甘い気持ちがあったことにも気づき「身を引き締めてがんばろう」と思いをあらたにしました。
この会社とのご縁でファッションブランドとのコラボが実現したり、大きな音楽フェスの公式クッズに採用されるなど、会社が大きく成長・飛躍するきっかけをいただきました。とても感謝しています。
「もったいない」が新しい価値を生み出す
現在「幸呼来Japan」では、2つの裂き織ブランド、プロジェクトを展開しています。
ひとつは、事業の立ち上げから取り組んでいる「さんさ裂き織」。ふたつめは今回立ち上げた「SACCORA」。4つのブランドラインを持ち、それぞれ個性豊かな裂き織プロダクトを提案します。プロジェクトはメーカーから預かったあまり布で裂き織をつくり、新たな価値が付加された生地としてお戻しする「さっこらproject」があります。
木綿が貴重だった時代に生まれた「裂き織」には「もったいない」と思う気持ち、モノを愛おしむ気持ちも一緒に織り込まれています。眠ったままの布と、技術を活かす場のなかった障がい者たち、そして細々と受け継がれる東北の伝統工芸。どれも「埋もれたままではもったいない」ものばかりです。裂き織によってそれぞれに光を当て、社会の中で活かされるようお手伝いをしたい。私たちの活動は、それを実現する大きな可能性を持っていると信じています。